多言語に対応できる職員が役所を去った

 標題のとおり。

 多言語に対応できる職員が役所を去った出来事があった。

 

 当該職員は、対住民向けの相談業務を担当していた。

 (消費者相談とかこころの相談、子育て相談とかそういう窓口)

 

 技能実習生や移民など、外国語話者への対応はどこも苦慮しているだろう。

 当自治体もその1つで、一応、民間団体に外国語通訳をお願いしているのだが、

 24時間365日通訳が常駐しているわけではなく、

 通訳のいない日時に外国人から相談があると、職場に緊張が走る。

 

 そんなときに異動してきたのが、Aさんだった。

 留学の経験があるほか、「駐在妻」の経験もあるそうだった。

 (多くの自治体には「配偶者同行休業」があり、職員の身分を失わずに済む。)

 

 Aさんの話せる言語(日本語除く)は、

 とある東南アジア系の言語と中国語、英語であった。

 

 当時(というか今も)相談窓口には、

 まさに東南アジア系・中国系住民からの相談対応に苦慮していたことから、

 Aさんの配属はありがたい限りであった。

 

 ところが、これに「待った」をかけたのが係長。

 

 あるとき、通訳さんのいないときに中国系住民から相談が来て、

 Aさんに対応をお願いした。

 

 相談終了後、係長が次のように言った。

 

 「外国語のできることは良いことだが、

  Aさんが回答した内容が合っているかどうか上司として判断できないから、

  次からは控えてほしい。」

 

 係長に限らず職場全体の状況について補足しておきたい。

 通常、職員が日本語で相談対応する際、

 仮にその対応職員の回答が間違っていた場合、

 近くの職員が訂正を入れることがある。

 係長は、これができなくなることを懸念したものである。

 

 これについては、係長にも一理あるかもしれない。

 相談内容によっては、回答のミスが相談者の大きな不利益に直結する場合がある。

 

 Aさんは若干不満気味ではあったが、その場は収まってくれた。

 

 問題が起きたのは、それから間もないことであった。

 

 アジア系の複数の住民が来所し、

 外国語とカタコトの日本語で色々訴えに来たのだが、

 一向に分からず、対応に苦慮していた。

 

 通訳さんが対応できる言語ではなかったが、

 幸いにもAさんの話せる言語により、意思疎通ができることが分かった。

 

 ここに再び待ったを掛けたのが係長であった。

 係長はAさんの前に立ち、

 外国語相談の案内チラシを渡すとともに、

 「すみませんが、お引き取りください。」と言ったのである。

 

 Aさんはそのときに、

 「いや、そうではなくて…」などと言ったが、係長は聞く耳を持たず、

 アジア系住民達に退所するよう迫った。

 

 彼らの退所後、Aさんは係長に対して、

 「〇〇という国の機関はどこか、と言っていたんです。

  ここの部署と名前が似ているから、間違えて来所したのでしょう。

  ここから徒歩数分にあるところなのですから、

  それくらい教えてあげてもいいじゃないですか。」

 と言った。

 

 係長の主張はこうであった。

 「確かにそう言っていたのかもしれないが、

  こちらとしてはそれが本当かどうか確認のしようがない。

  そして、Aさんが外国語で対応したら、

  ほかの部署でも外国語で対応してくれるはずだと勘違いされてしまい、

  余計な混乱を招くことになるし、望ましくない。」

 

 Aさんは、このときばかりは非常に不満そうであり、

 あからさまに不機嫌そうな態度を出していた。

 

 それ以降、係長とAさんとの関係はビミョーな雰囲気となった。

 

 その後も2人の間には色々と揉め事があったようで、

 結局、Aさんは年度途中で退職してしまった。

 

 この部署のみならず、

 役所全体として、多言語に対応できる職員のいなくなったことは、

 大きなマイナスなように感じるが、

 かといって係長の言い分にも、イチ行政吏員として全否定はできない。

 

 自分が係長となった今、

 Aさんのような部下が配属されたらどうしようか、と悩んでいる。